延藤安弘氏推薦文

 本書の特徴は第1に、わが国にあまねく存在する「河原町」がどのように「都市的なる場として生成し、それが互酬と贈与を前提としたハレ・ケガレの相互補完原理をもった場であり、かつ、「共同感覚」や「記憶」をふりつもらせる伝承の場であったかを渾身の力をこめて検証していることである。
 第2に、河原は典礼・防災・信仰・景観といった人の生命の相互触発化をもたらす都市的な暮らしの場であることと、そこでは人や物が交流・交換するだけではなく、すべての存在が互いに集まり含みあい、魂の交換する場としての根源的意味をもつことが丁寧にすくいあげられている。それは現代都市が実態的に「河原」を鍵失したことにとどまらず、河原のような場で展開していた多様な交流・交換機能を失い、サービスの「消費都市」におとしめられたことを指摘し、現代都市が、魂の「生産都市」として再構築すべき、21世紀型都市に向かうべきことを示唆している。
 第3に、モノ・カネ・セイドに偏重した均質な現代都市の危機をこえるためには、河原の場のような多様な出来事とそれに関わる人々(常民)のつぶやく印象・イメージ・記憶を手がかりにして、主体間の対話と協働の体験を通しての特異性と偶発他の流れを生成する市民参加のフィールド・現場を育むことを具体的に提起している。
 第4の特色は、筆者はそのことを観念ではなく、阪神大震災後の復興まちづくりの現場(自らのふるさと地域〉で、市民に寄り添う「学問的自己」と参加実践する「市民的自己」の両立をめざす participant researcher(参加型研究者)としてリアルに検証していることである。彼はまちづくりの現場では、住民・行政・専門家などの異なりた主体間の「共同感覚」・「方向感覚」をたゆまず、発見し意味づけする創造的 facilitator としての役割を果たしている。
 第5に、方法論において日本民俗学をこえて都市民俗学の創設を提唱していることである.その内実は民俗学にとどまらず、現代の諸学問分野に共通する近代的な methodに加えて、客観だけでなく共感を大切にし、事実関係だけではなく想像力を重視するといった対象論から関係論へ、モノローグからダイアローグ・アプロ-チヘと、そして、日常性の最も小さな細部に、共鳴する感受性と実践的展開の結合を試みるという、新しい時代の学的方法を開いている。
 第6に、大部な本書には、柳田・折口といった先達とのポレミカルでスリリングな論議がみなぎっているとともに、現代常民への共感にひたされた歓待の心がにじんでおり、物特性と創通約緊張感のある記述が縦横無尽にみなぎっていることも類書の追随を許さないものがある。
 以上のように、モノ・カネが満ち溢れながら、ヒトのココロの喪失が問題視されている現代都市のいきづまりに対して、「河原町」の示唆するところは少なくはない.河原町と都市民俗学は思考の同じひとつの運動であるという視点から、都市としてのハレ、人の生命にふれるエクスタシーの分かち合い、異なる出会い・楽しさはどのようにしたら回復・再創造できるのかを求めての深遠な歴史的考察と鋭い現代への洞察と未来への思考の刷新が全編こ駆け巡る本書は、わが国の生活学の発展に資するものであり今和次郎賞に最もふさわしい内容として心から推薦します。