子供の死 と 最高の仕事 との背中合わせ
《くるみ割り人形》の原作は、ドイツの幻想小説作家E.T.A.ホフマンによる『くるみ割り人形とねずみの王様』である。.....元来、この物語は自分の子供を幼くして失ったホフマンが、知人の子供たちに即興的に語り聞かせた話に由来すると言われ、第1幕で子供たちにクリスマス・プレゼントを贈る「ドロッセルマイヤー叔父さん」の役は、ホフマン自身がモデルと考えられる。
チャイコフスキーも、このお伽話(とぎばなし)に切実な意味を見出したひとりである。旅行中に読んだ新聞記事で、彼は実妹アレクサンドラの死を知る。....妹の死をきっかけに、チャイコフスキーは幸福だった幼年時代の想い出をこの物語に重ね合わせたに違いない。2か月間の欧米旅行から帰国した彼は、1か月足らずでバレエの下書きを終えてしまうのである。
心に痛みを負ったホフマンやチャイコフスキーが、このお伽話に託したものは何なのだろうか。革命前の帝室舞踊学校でロシア・バレエの薫陶を受けた振付師ジョージ・バランシンの次の言葉は印象的である。「人間はその発達の最高の段階で子供に近づくというドイツ人の考えが、彼(チャイコフスキー)は好きでした。……あらゆる人のなかで最良の、最も重要な部分とは、子ども時代から残っているものです」(『チャイコフスキーわが愛』、新書館)。(NHK. 曲目解説 千葉 潤 より)
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