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2017年9月23日 (土)

秋山美紀「地域介入とエビデンス―複雑介入と混合研究法を巡って」『KEIO SFC JOURNAL 』Vol.14 No.1、2014年

近年、「Evidence Based (エビデンスに基づく)」という言葉が多方面で聞かれ。もともと医療・医学の分野では、1990年代からEBM(Evidence Based Medicine)の考え方が提唱され、それぞれの患者に最適な治療法等を検討する出発点となる診療ガイドラインが、最新かつ最良の研究成果を系統的にレビューした上で整備されてきた。この「Evidence Based (エ ビデンスに基づく)」という考え方は、その後、社会福祉、教育、刑事司法 など各分野の政策と実践にも拡大されるようになっている(石垣千秋「<エビデンス>に基づく医療から<エビデンス>に基づく政策へ:英国におけるEBMの展開」, 2001)。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスにおいても、2012年度より「エビデンスに基づく」と冠する授業や教育プログラムが行われるようになっている。
Evidence Basedはブレア政権(1997-2007年)のときからいわれ、2000年に英国教育雇用省は「Evidenced-informed Policy and Practice Initiative」をロンドン大学教育研究所(IOE)の社会科学研究ユニットの一部である「エビデンスによる政策と実践のための情報連携センター(Evidence for Policy and Practice Information and Co-ordinating Center:以下 EPPI センター)に委託している(惣脇宏「英国におけるエビデンスに基づく教育政策の展開」, 2010)。Evidence Based ( エビデンスに基づく )」という考え方は、その後、社会福祉、教育、刑事司法 など各分野の政策と実践にも拡大されるようになっている(石垣 , 2001)。
医療と社会政策の分野に共通の「エビデンス」の定義を試みれば、「通常、因果関係にかかる命題で実証的検討を経たもの」(Sherman, L. W., et al, 2006;惣脇「英国におけるエビデンスに基づく教育政策の展開」, 2010)である。
観察研究や質的研究を含む様々な研究がエビデンスとして活用されており(Liamputtong, 2010)、質的研究やそれと量的研究とを組み合わせた混合研究法(Mixed Method)が重視されるようになっている。
米国保健福祉省の Agency of Health Research and Quality も「質の低い RCT(評価のバイアス(偏り)を避けるために行ったランダム化比較試験Randomized Controlled Trial)よりは、内的妥当性 (internal validity) の高い観察研究の方がはるかに有用である」という。Evidence Basedに大切なのは群間の比較の妥当性が確保されていることである。
Evidence Basedは、「最善の根拠」と「医療者の経験(資源)」、「患者の価値観」とを統合するようなものが意思決定である(中山『健康・医療の情報を読み解く』2008)。「エビデンス」「構成員の価値観」、さらに「使える資源」の視点も加えて、それらの重なりから政策決定が行われるべきであり、その合意形成を得るための議論が重要とされている(図 1)。
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1 患者・人口集団の意思決定要因(出典:中山 2008 p.154/Muir Gray“Evidence-Based Healthcare, 2nd Edition”2001)
中山 健夫『健康・医療の情報を読み解く-健康情報学への招待』丸善、2008年。
一方で、Narrative Based Medicine という概念も等しく重んじられるべきである (Greenhalgh, 1998)
Greenhalgh, T. and Hurwitz, B. eds. Narrative Based Medicine, BMJ Books, 1998. (齊藤 清二ほか(監訳)『ナラティブ・ベイスド・メディスン 臨床における物語と対話』 金剛出版、2001年。)

何が最良のエビデンスであるかは、解決すべき問題の性質や方 法論的立場によって異なる。現在は、量的、質的な研究を統合する混合研究法Mixed Method の手法も発展している(Creswell et al, 2007)。
複雑介入(Complex Intervention)の場合、従来の介入研究には軽視されがちだった、実現場への適合性、実行性を含めた効果、つまり一般化可能性(generalizability)や外的妥当性(external validity)を重視しているのが MRC(英国のMedical Research Council。2000年にフレームワークを作成し、2008年に詳細なガイダンスを発表している)である。
比較群間のバイアスや交絡を極 力制御した内的妥当性の高い研究デザインや評価手法を紹介しながら、同時に、従来の介入研究には軽視されがちだった、実現場への適合性、実行性を 含めた効果、つまり一般化可能性(generalizability)や外的妥当性(external validity)を重視している。
 

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1 主な混合研究法 (Mixed Methods) のデザインのタイプ (Creswell 2007, pp.65-94 をもとに秋山作成)

石垣 千秋「<エビデンス>に基づく医療から<エビデンス>に基づく政策へ:英国におけるEBMの展開」『SRIC Report Vol.6(3)、三和総合研究所、2001年、pp.58-66

惣脇 宏「英国におけるエビデンスに基づく教育政策の展開」『国立教育政策研究所紀要』第139集、2010年、pp.153-168

津谷 喜一郎「コクラン共同研究とシステマティック・レビュー-EBMにおける位置づけ」『公衆衛生研究』494)、2000年、 pp.313-319

中山 健夫『健康・医療の情報を読み解く-健康情報学への招待』丸善、2008年。Creswell J. and Plano Clark V., Designing and Conducting Mixed Methods Research. Sage Publications, 2007. (大谷 順子(訳)『人間科学のための混合研究法-質的・量的 アプローチをつなぐ研究デザイン』、北大路書房、2010年。)

 Liamputtong P. eds. Research Methods in Health: Foundations for Evidence-Based Practice. Oxford University Press, 2010.(木原雅子、木原正博訳『現代の医学的研究方法-質的・量的、ミクストメソッド、EBP』メディカル・サイエンス・インターナショナル、2012年。)

 

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