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2015年5月13日 (水)

フランス交通負担金の制度史と政策的合意

南聡一郎『財政と公共政策』(第34巻第2号、2012年、122-137頁)は、興味深い。
 もっとも驚いたのはフランスの交通税が、正確には税ではなく、CGCT地方公共団体基本法典第L2333-64条にもとづき、地方自治体やコミューン、複数のコミューンが、交通負担金を求めているにすぎないことだ。租税基本法典を根拠とする地方目的税ではないことだ。したがって、徴収業務は税務署ではなく、社会保険機構が行うことを指摘している点である。
 こうして、9人以上の事業所は、パートタイムを含めて、交通負担金を求められ、それで公共交通が維持されている。
 右肩上がりが終わり、通勤手当の増加を期待できなく、独立採算を求められる日本の公共交通事業者は瀕死の状況である。こうしたなかフランスの公共交通協力金は参考になる。ただしフランスの交通負担金は、従業員送迎サービスなどを独自に行っている事業所には除外される。
 さらに南論文の興味深いとことは、ミッテラン政権では、交通権として制度がつくられたが、シラク政権下では、渋滞対策:環境問題として充実化されたことを指摘している点である。最近のサルコジ政権では、グリーンニューディールとして、道路建設抑制とあわせて公共交通充実をすすめている指摘も興味深い。
 はたして、日本では自動車産業が総合組み立て業として基幹であるから、公共交通投資ができないのであろうか。確か、日産はルノーの傘下ではないか。ないのは、グリーンニューディールなどの政策ビジョンである。
 日本では交通税がないから、公共交通運営の交通連合ができないのか。そんなことはない。ないのは、自治体の交通ビジョンと交通政策である。京都市では歩くまち京都を条例化して、革新的な施策を展開しているではないか。嵐山の渡月橋は観光繁忙期、通行禁止になったではないか。京都市など先進地以外の自治体にないのは、政策にもとづいた条例=制度的担保である。
 日本では地方財務が逼迫しているからLRTやBRT(高規格バス)ができないというが、違う。サルコジ政権では、グリーンニューディールとして、道路建設を調整し、公共交通に投資している。日本でも、道路予算は社会資本費になっている。日本にないのは、地方政策のビジョンとリーダーシップである。
 自治体が、国の制度を活用し、
・ビジョンを明確にして条例化し、
・市民(事業所)は少しの協力金を、役所は道路予算の少しを転換し、
・従業員送迎・客送迎バスをやっている企業はその予算を協力金として路線化に振り向ければよい。
 生み出された予算で、交通連合運営体をつくり、上下分離の経営体とすればよい。
 日本には法も税もない。フランスはいいなあと綺麗なLRTの写真を見て、楽しむ「評論家鉄ちゃん」で良いのか。お金がないからできません「言い訳自治体」で良いのか。
北海道東北地域経済総合研究所原稿より)
 ここで助成対象になっている交通モードは、LRT・BRTにとどまるものではない。TCSP(専用走行路を有するすべての公共交通機関)という概念である(塚本、南、吉川、ペリー「フランスにおける都市交通政策の転換とトラムプロジェクト」『大阪産業大学人間環境論集』14、2015年)。専用走行路という点が重要であり、場合によっては道路空間の再構築が必要となる。

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