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2015年1月13日 (火)

演習Ⅰ宿題、寄り合い、篤農家、世間師、文武宿、もらい子、商人

宿題
1)宮本常一の著作は、地域づくり、国土づくり、暮らしや産業づくり、コミュニティの合意などに関しての優れた情感あふれる記述:エスノグラフィーである。宮本常一の記述から、あなたの心にふれた、思わず熟読したくなるような描写(今和次郎のスケッチのような)を、2~5選びだせ。
2)選ぶ作業にじっくり時間をかけ、関心の向いた部分を探しなさい。本を1冊読んでの感想ではなく、あなたの視点での描写を求めている。
3)(自分の記憶、思いが先行して色眼鏡で見るのではなく、または、自分の視点がなく他人事のように適当に引き写したのではない)他者や私たちの地域・国土の未来を考えるとき(柳田國男の指摘する「同情」と「内省」)、宮本常一の記述を、自分の視点で、かつ原典を活かし10~100字で正確に描写しなさい。
4) 3)の描写を複数用意し、対話技法の素材、用意としたい。

※(この宿題を、私が受けた場合の複数の描写の具体例)+対話のためのノート
『宮本常一著作集第31巻 旅に学ぶ』1986年、未来社、pp223-225:突然、村から消え巡礼に出て、30年後、ぽっと帰ってくる。宗教だから、出先の村でも宿を提供してくれたし、村でも戻ってきた人を世間師として許した。宗教を通じた、外部とのコミュニケーションが日本の村にはある。
『宮本常一著作集第29巻 中国風土記』1984年、未来社、pp194-200:鉄穴場で石切をしつつ、田を広げてきた。さらに、木を切って、広島から吉野の樽丸に出稼ぎに出た。干拓新田、塩田、波止場づくり、段々畑の石工が集団で行動した。日本の村には移民、世間師は多かった
『庶民の旅』1970年、八坂書房、pp183-188:托鉢のような米持ちに対して、村では回り宿を提供した。個人では、喜んで宿を提供する千人宿もあった。
『庶民の旅』1970年、八坂書房、pp145-150:文武の才のある者に宿を提供する文武宿が、江戸時代にはあった。
『日本の宿』1984年、八坂書房、p214:落とし宿という盗人の宿がある。貧しいものでも貧しいなりに生きる連帯の社会があった。 
『宮本常一著作集第30巻 民俗のふるさと』1984年、未来社、pp64-58:乞食が集まり、落後者が商人になり、町となった。 
『宮本常一著作集第35巻 離島の旅』1986年、未来社:飛島では、北前船がもらい子をして、労働力とした。
『宮本常一著作集第15巻 日本を思う』1973年、未来社、pp305-308:篤農家が消えた後、人と人とを結びつける紐帯としての農業が消えた

寄り合いという対話技法『宮本常一著作集第10巻 忘れられた日本人』1971年、未来社、pp7-11:区有文書を宮本に貸す話の発議がなされると、
①地域組みで語り合い、結論を区長に持っていく(班で語り合い)
②区長・総代は聞き役             (聞き役)
③「よく話し合おう」という結論(即決せず、よく話し合うという結論)
④異論「昔、文書を借りて返してくれなかった例」(リスク指摘)
⑤関連ある話、多様な話             (拡散)
⑥まったく異なる話に移る           (話題転換)
  ある程度話すと、
⑦帳箱の中身は何か 役立つなら見せてはどうか(貸す意味を問う)
⑧(長老が)見れば悪い人でない 話を決めよう (人物見定め)
⑨外で話していた人も窓に寄り、話に参加する  (皆の参加)
⑩(求められて、宮本が)古文書の中の鯨を取ったとき着物化粧禁止などを説明(意味の説明)
⑪鯨が取れた頃の話            (想起による意味の再発見)
⑫(宮本を案内した老人が)どうであろう貸してあげれば(まとめを促す)
⑬あんたがそういうなら良かろうの声  (個人信用)
⑭(区長が)それでは私が責任を負いましょうと発言(責任者の引き受け宣言)
⑮借用書を書いて、皆の前で読み上げ   (書いて読み上げ確認)
⑯「これでようございますか」と確認する   (言葉で確認)
⑰皆が「ハァ それで結構でございます」
⑱みんなの前で古文書を渡す         (オープン行為)

上記個別描写をまとめた森栗のノート……寄り合いと篤農家がつくってきた日本の村は、出かけた経験のある世間師、文武の人を情報源・判断者として大切にした。町は、落伍者が支え、流通はもらい子が支えてきた。日本の村や町は、固定的なものではなく、驚くほどの話し合い、外を受け入れる多様な融通の仕組みがあった。
 コミュニケーションレスの現代日本は、この衆議とコミュニケーションの記憶を思い起こすことが必要である。

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