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2011年5月19日 (木)

進士五十八『日比谷公園』鹿島出版会

本書は、単なる都市公園計画史や造園論ではない。
 都市と緑と空間に関する生活誌であり、公園から見た都市文明論である。

いうまでもなく、日比谷公園は日本都市公園の代表であるが、その変遷は都市世相史を反映し、常に、単なる空間用途論によって改廃の危機を背にしている。進士はこれを卒論として研究し、その利用の生活誌まで調査している。

日比谷公園の特色は、単なる公園広場ではなく、洋花、洋食(松本楼)、洋楽(音楽堂)をそなえ、かつ江戸城の堀石を活かした和庭園も含めた多様構造にある。その多様な公園が、関東大震災での避難場所として、戦時中戦後の高射砲陣地から食糧畑、仮埋葬地として、また年越し派遣村の記憶に新しい政治プロパガンダの場として、文士や芸術家の交流の場として、さらには児童遊園による教育の場として、多様な公園生活史を歩んできた。進士はこれを「幕の内弁当」の生活美として評価している。天才建築家が作る造形のみに意味があるのではなく、人と緑と時間がおりなす歴史性・文化性をおびた生活のなかにこそ美が存在する。

こうした生活美こそ、コミュニティの核たりえる。進士の指導教員であった井上清は、帝都復興計画で公園と小学校をペアにしてコミュニティ核にして配置している。さらに、井上は多摩霊園や、公園での児童指導にも手を染めている。ゆりかごから墓場まで、緑が護って来た。これが都市公園である。

井上の公園形成事業を、都市生活史に位置づけて受け継ぎ、全国的に展開したのが造園学会長、都市計画学会長を経歴した進士の功績であり、その最初で終生の対象が日比谷公園である。本書はその記念碑的著書である。

生活からみれば、公園こそ都市の核であり、建築や道路は、ガワにすぎない。見えない生活に眼を凝らした進士の態度こそ、究極の生活学である。見えない空気、経済価値のない緑こそ、生活に最も大切なものである。生活学を学ばない造園や都市計画は、アンコのないガワ研究かもしれない。
 私は、大都市計画学会会長を勤め学長を務めた進士先生が、なぜ、小さな生活学会の会長をわざわざ勤めていただいたのか、その思い、意味が本書を読んで初めてわかった。
 ぜひ。日本生活学会に入りいただき、ガワを越えて勉強しませんか。市民も、学生も気楽に発表や会合参加できます。
7月16日に「木器と木の文化シンポ」「同潤会大塚アパートメントハウスシンポ」
10月8日に、震災と生活学シンポ
を行います。来春の大会は大阪。
紹介者は、森栗としてください。
正会員:10,000円 市民会員:6,000円 学生会員:5,000円

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