デッドロックから発意される「志」
大都市の住民参画による環境交通の協議会。環境定期券が議題となった。この協議会では、市民の提案は全部取り上げて議論しようと決めた。が、流石に料金に関する議論は、個別交通事業者の収益に関わる問題なので、難しい。
とはいえ、市民提案の環境定期を議論しようとしたら、実際には、定期券を持っていれば、土曜日曜は、一緒に乗る家族は半額(子どもは1/4)という、いつでも環境定期になる制度があった。ところが、6名の市民委員の誰もが知らない。制度は良くても広報が悪いのかと話をすすめていくと、交通事業者は環境定期券設定の折には派手に宣伝したようだ。そのうち、市民の一人が「複数競合路線のところでは来たバスに乗る。割引率が低いので、特定のバス会社の定期は買わない」と実態を語り出す。
環境定期の課題は、その商品設計ではなく、広報でもない。実は、一つの都市で数社が入り乱れ、連携できず、利用者にとって使いづらいという古い営業体質にあったことが判明した。市民にしてみれば、ヨーロッパには、オスロカードなど、何でも乗れる1日券があるのに、何で日本ではできないのかとの質問が出る。
事業者や運輸局が答えるのは辛いので、私が「欧州では交通税の公金が運輸連合に入っている。だから運賃の共通化、ゾーン運賃ができる。日本は交通税がなく、人口増加にあわせて、交通事業者がその収益増加で障害者割引、通学定期などを工夫してきた。だから難しい」と説明。説明はできても、では、どうしたら良いか?これは困った。根本問題でデッドロック!
座長、右往左往で各方面の意見を促していると、バス事業者の幹事から「個人的意見ですが」として、「各社縦割りの状況がある」との告白があった。
根本問題を真摯に共有すると、雰囲気は一気に建設的に変わった。市民の意見に、交通事業者がいちいち首を縦に振ってうなづいていた。市民の一人が「特定期間に共通券を試してみて、後は通常時期の按分で精算すればどうか」と言い出したとき、私は次のようにまとめた。
「交通事業者には知恵がある。共通切符・共通定期、その延長としての環境定期については、交通事業者どおしの議論と運輸局の支援に期待しよう。今日は、ここまで」
真摯に市民の声に耳を傾け、議論のデッドロックを受け止めて、改善しようと「志」を示した交通事業者間のリーダーの勇気に感動した。そこを信頼しようというのである。
これからの公共インフラは、こうした市民を交えた議論を尽くす中から発せられる、専門家の決意、叡智から、大きく開発・改善がなされる。決意、叡智は、市民の信頼に支えられてこそ、揺らぎないものとなる。これだから、住民協働型交通まちづくりは、面白い。
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