サービスされる福祉から、みんなで練る上げる福祉(我孫子市)
利根川と手賀沼に挟まれた小さな台地に、我孫子市がある。人口17万人、駅にはエレベータやエスカレータがあり、コミュニティバス(あびバス)が100円で走り、福祉の町として有名である。しかし、あびバスが施設や住宅地をまんべんなく廻ろうとして不便だ、本数が少ないという苦情もあれば、あびバスがない地域の不満も鬱積していた。担当者は、苦し紛れに私の講演会に来て「自分たちの移動は自分たちで支えあう」という、くるくるバスの理念、実践に感動したという。
「(森栗は)危ないよ」という上司・同僚の声を、「このくらい厳しい先生に来てもらわねば、我孫子の交通や福祉、市民意識は変わらない」と説得したという。
運輸政策機構と連携し、2回意見交換、市民代表・事業者講演会を行い、昨日、市民ワークショップと講演に出かけた。
「赤字のあびバス廃止、料金値上げを画策しようとして、こんな面白い先生を関西からよんできたのか?違います。役所が勝手に走らせたバスに問題があるなら、市民のウォンツを知っている市民自らが地域交通を考え、一緒に交通まちづくりを考えてはどうか」と、ギャグを投げつけた。ところが、アイスブレークどころか、会場はドライアイスのように固まった。あまりにも図星。「私らは、あびバスサービス低下に理解を求めるアリバイづくりに集められたのか」と勘違いされてしまった。
この冷たい空気を変えるたのは、住吉台くるくるバスでの住民の主体的活動を紹介したときだった。停留所を皆で現場議論して決めた写真や全世帯配布のくるくるバス通信、孫子の代までつづくバスという考えを紹介したときだった。地域のことは地域で決める。その中心は元気高齢者だと鼓舞すると、前期高齢者が小躍りしだした。
事後、ワークショップに入り、道路状況や鉄道・自転車も含め、不満、課題が吐き出すように出てきた。一方で、「そもそも市役所の態度が悪い」とか、評論家のごとく「事業仕分けのように・・・」と演説しだす男性も…。コンサルから来たファシリテータがまとめの方向を問いかけると「あんた、適当にやっといと」となる。
先生、講評をと言われて、「市民どおしでの話し合いでは、悪口は言わない、評論をしない、できっこないは言わない、演説せず本当に困っている人の話を聞く。文句ばっかりいっていても地域は良くならない。役所は、役所だけでは限界だから、虚心坦懐に市民の意見を聞こうとしている。が、市民がこの程度の無責任・評論家レベルじゃ、我孫子は良くならん」と罵倒した。
するとみるみる顔つきが変わり、議論は具体的になってきた。個々の我発協働。孫子の代まで続く交通。子どもも高齢者も自由な移動と、皆の議論をスケッチしてまとめると「我孫子」になる。大喜利芸で談笑のうちに終わった」。
これで、市民と行政がひざ突合せ、利用者目線で効率的持続的にあびバスを含め地域の交通課題が議論されるであろう。話し合いのルールも理解され、評論や要求ではなく、あれかこれかを選別し、実質的に政策方向を語り合うと思う。
帰り際、市民の方々の自信に満ちた目を見て思った。
我孫子は、市民と行政・事業者が協働する交通まちづくりを活かした福祉のまち。高齢者ががぴんぴん歩くのを、市民が支える公共交通が担保する、素晴らしい町になるであろう。
政策の推進力は、市民と行政の信頼感である。その信頼感は、たった一日でできる。我孫子には、そういう市民が多くたのである。
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