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2010年9月28日 (火)

本当にお大師様に会う?話

四国遍路には、病気が奇跡的に治ったという話が多い。22番札所平等寺(徳島県阿南市)本堂には、3つの箱車が納められ信仰の対象になっている。その説明板によれば、明治時代、土佐など各地の足の病の者が箱車に乗って、または沿線の村人に引いてもらい担いでもらい廻ったところ、平等寺で完治し、そのお礼に箱車を奉納したという。
 一方、第27番札所神峯寺(高知県安田町)は豊かな水が湧き、その水を飲んで脊髄カリエスが不思議に治ったといい、そのお礼の石碑が立っている。さらに、最近、末期ガンの人がお参りに来たところ、その階段の下で僧形の人が現れ水を飲ませてくれた。するとガンが治った。あれはお大師様に違いないという人が居ると納札所で聞いた。

 お大師様が現れた話としては、善通寺宿坊で次のような話をもれ聞いた。甑島から金毘羅に来た。電車に乗っていると「降りろ」の声がする。善通寺駅から歩くと、川にはまって溺れそうになった。その時、助けてくれた人がいた。後姿が僧形で、あれはお大師様に違いない。お礼を言おうと善通寺に来た。ところが17時を過ぎて大師堂が閉まっていたので宿坊に来たと、濡れ鼠で寺務員に語っていた。私も宿坊玄関を後で確かめてみると、滴が垂れていた。寺務員に尋ねると、こういう話を持ってこられる人は珍しくないという。

 このような話を考慮すると、第72番札所曼荼羅寺の脇で乾燥うどん販売をしている女性が、仕事も何とかなってるし、会った歩き遍路は皆、お大師様と思いうどんを接待しているのも理解できる。接待は、遍路の中にはたかってくる人もいるので止める人もいるが、私は商売と思われて避けられると嫌だから積極的に呼び込まず、入ってきた歩き遍路さんに接待している。私に対して、荷物を置いて、弘法大師が修行した捨身ヶ嶽に登ってきなさいとすすめる。真夏なので躊躇していると、凍ったペットボトルを渡され、私はそれに魅かれて急斜面の山を真夏に登った。すると、美しい景観が見て取れ、中腹には真夏なのに極冷の柳の泉があった。夢のような経験をさせていただいた。

 私は信仰心が低いので弘法大師を見ることはできないが、他人のなかにお大師様を見ることはあった。
 実は、今回、40日1000km通し遍路において通夜堂や善根宿・接待宿を経験したいので調べると、だいたいの位置は確認できても住所・電話がわからないことが多かった。そこで当てずっぽうで手紙を書いたところ、各地から電話、返信ハガキをいただいた。そのなかに、松山・今治間の浅海大師堂から「浜田のおばちゃん」という人からハガキをいただいた。今回、8月29日に高知県四万十町で調査と講演をすることもあり、今治出発、ゴールとしたので、浅海大師堂は最後の宿かと考えていた。

 ところが、40日歩いて、残りわずか、松山の道後温泉でゆっくりすると、通夜堂や善根宿が苦しくなってきた。畳がなく板敷きかもしれないし、布団はないかもしれない(事実、座布団を重ねて寝た)、扇風機はないかもしれない、百足が出るかもしれない、もう充分、通夜堂は体験したではないか。普通の民宿、せめてユースホステルにしてはどうか・・・と、北条YHに電話したら営業していないという。
 そういうこともあるかと気を取り直して、駅のベンチに座って、菅さんが泊まったというペンションの電話番号を調べと思い、駅舎に入ると、ホームの車掌から「下り電車、乗るんですか」と大声で聞かれ、思わず「乗ります」と答えて、小走りに乗り込んでしまった。

 夕暮れの知らない駅に降り立ち、無償の宿を乞うのは、乞食家業の慣れない、覚悟のない者には不安である。とぼとぼと「浜田のおばちゃん」の家を探し出した。そして、呼びベルを押した。すると、大師堂を守るお婆さんではなく、水道・ポンプの仕事に忙しい40歳台とみうけられる働きざかりの女性が出てこられた。手にした「納め札(氏名、年齢、住所の記入)」をお示しして通夜堂を乞うと、「よくご無事で」と声をかけていただいた。

 彼女は、見ず知らずの私のハガキを覚えているだけでなく、猛暑の中を廻る私をずっと気遣ってくれていたのだ。それに比べて私は、自分の都合で他に泊まろうとしていたのである。たまたま北条YHが臨時休業で、たまたま列車が出るところで、この大師堂に来てしまった。私は彼女の配慮に感激しつつ、それを裏切って楽をしようとした悔いを感じつつ、何度も何度も感謝を述べた。

 小奇麗な畳敷きの大師堂に入り、いつも以上に丁寧に経をあげた。40日1000kmの最後の夜、偶然に偶然が重なって得られた出会い、他人の配慮・思いに触れ、感謝の気持ちで感極まっっていた。出会う人にお大師様を思う、お大師様に出会ったというのは、こういうことなのかもしれないと思いつつ眠った。

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