密教と土木計画②
密教の根本経典:大日経では、「菩提心を因とし、大悲を根とし、方便(実践)を究竟(くきょう)とす」(三句の法門)という。今日の土木工学に菩提心(悟りを求める心)はあるか、大悲(慈悲の心)はあるか。方便(技術力)だけでは、土木の目標=社会正義を達成することはできない。
日本に密教をもたらした空海は、即身成仏(速く成仏する)+密厳国土(現実の世の中を良くしていく)を説いた。密教は利他行による、即身・究極の大乗仏教とされた(本覚思想:第1巻入真言門住心品)。
即身は、地水火風空と認識の六大融合からなり、相としては 四曼(尊象[大]、象徴[三昧耶]、文字[法]、立体[羯磨])である。宇宙とその裏表にある身の構成を知り、インフラ開発の地域協働において、ビジョン[三昧耶]を決めてスローガン[大]を押したて、現場で協働して考え[羯磨]、語合い情報交換し[法]ていく相をすすめる。そのことが、行政マン、研究者の究極のやりがい(成仏=安心立命)となる。
密厳国土(現実の世の中を良くしていく)ためには四恩[父母の恩、衆生の恩、国王の恩、三宝の恩](家庭・社会・政治・宗教をよく知る)ことが重要である。住民の生活状況、地域の状況経過、法制度及び地域の哲学を充分知った上で、その地域の恩にあわせた絵を描く必要がある。それは、人々の心、人々の言葉(思想)、人々の意思を注意深く観察することから始まる。心・仏・衆生の三密を探らねば、密厳国土はすすめることができない。これは人間レベルでは、身、口、意(三業)として表され、人々の動きや言葉、意思に注意をはらうのである。
一般に、ユング心理学では曼荼羅が心を表していると分析されたという。しかし密教の文献に、曼荼羅が心を表すと明確に記述されたものはない。むしろ、曼荼羅は個と全体性が融合された〔集合的無意識〕(「ユングと宗教心理学」)=社会システムを表すと考えたほうが良い。曼荼羅は、フロイト的な深層心理を越えた、社会システム及びそれに対する作動=例えば土木工学の表象である。ゆえに、曼荼羅で土木工学の意味を考えることは、土木博士空海を出さずとも根拠のあることだ。
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