となりの車線はなぜスイスイ進むのか?
トム・ヴァンダービルト『となりの車線はなぜスイスイ進むのか?』早川書房
単なる交通心理学かと思ったが、深い内容。
■匿名性、楽観主義バイアス、そして無反省な、運転ナルシズム。その結果の無謀漫然運転による「ヒヤリ・ハット」(1つの大事故の前には29の小事故があり、300のヒヤリハットがある(ハインリッヒの三層ピラミッド)。そして、道路ができれば、個々の効率的な判断によって、クルマ潜在需要を掘り起こし、渋滞が起きる。
■快適通勤往復時間は66分。だから都心は半径30分圏。(だから町歩き観光は観察時間を入れて90分)なのに、道路ができると通勤時間が延びる。そのうち、クルマ利用のほとんどはショッピングセンターに向かう時間、もしくは駐車場をぐるぐる探す時間【『無料駐車場の高コスト』ドナルド・シャープ】、さらにはサッカーママのピックアップにあてられる【運転時間は過小評価され、徒歩時間は過大評価されるが】。人生の1/3を寝食に、1/6を労働に、そして1/3をクルマ、これを豊かと考えてよいのか、私は考え込んでしまう。
■無料駐車場に外車で駐車する人のコストは、公共交通で来る人の価格にも含みこまれ、静かな環境に住む人の大きなクルマがクルマを持たない比率が高い密集市街地の住民にガスと騒音をあびせる(ex.西淀川公害訴訟)【ドナルド・アップルヤード】=クルマの外部経済の非対称性。
■自分だけ少しの結果、公共空間は著しく海蝕されまちの環境と景観はそこなわれる。それどころか、事故わき見渋滞のように、せっかく10km渋滞待ちをしたのだから、事故をわき見ようとして、さらに渋滞を引き起こし、そうしたわき見でのヒヤリ300回の果てには、当人の交通事故死が待っている。
こうした問題は、クルマが人間の身体能力以上のスピード【30km/hを越えるとアイコンタクト(視線コミュニケーション)不可能】、と
身体以上の重量【50kgの人間が2tのクルマを操る】、身体以上の面積を占める【幅60cm、厚さ30の人間が、幅1.7m、長さ5m】を占め、
その外部不経済を無料で利用【道路は無料で、ドライバーは騒音や排ガスの損失負担もしない、ショッピングセンターの無料駐車は購買料金に内包されている:道路建設維持には、道路特定財源以外に多くの一般財源がつぎ込まれている】 していることに由来している
こうした外部不経済をもとに、自動車産業と道路建設が牽引した成長と再配分、民主主義発展の寄与は否定できない。しかし、そろそろ、外部経済の内部化により、わかちあい、出会い語り合う【都市計画で言えばゾーニングでえはなく、カップリング】、たとえば、都心の駐車料金を高くし、都心交通を無料化するなど、新しい都市経営パラダイムに転換すべきときが来ている。そのとき、公共交通は成長産業になるのである。
クルマはとても便利だ。他人がほとんどクルマを持たない状況では極めて便利…。
家康家訓「及ばざるは過ぎたるにまされり」。
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